特別企画

【今日の読み切り】「弟の俤」

大正時代のグロテスクでピュアな少年たちの物語

【弟の俤】

著者:戸桝有馬

講談社

 軍医を夢みる少年顕彦は、はく製やホルマリン漬けが並ぶ不気味な博覧会で、美少年、久夫と出会う。意気投合した2人は一緒に博覧会を回るが、久夫が突然倒れてしまう。介抱していた顕彦は、久夫の片手が義手であることに気づく。

 弟の俤(おもかげ)は、戸桝有馬氏の短編漫画。2024年のアフタヌーン四季賞受賞作だ。緻密に描きこまれた大正時代の背景は、美しくもグロテスクで、忘れられないインパクトがある。

 顕彦は久夫の家で、病に侵され寝たきりの兄、天骨に出会う。久夫は兄を慕い、かいがいしく世話をしている。だが顕彦には、兄の存在が久夫を縛り付けているように感じられた。顕彦は久夫を今の境遇から救い出したいと願うが――。

 友情よりも濃いが、恋愛ではない、そんな少年たちの初々しい気持ちの交わりが、増していく不気味さの中で輝いている。ホラーともSFともいえる、どこまでもピュアな2人の結末をぜひ見届けて欲しい。

【あらすじ】

 大正10年。衛生博覧会で逢った軍医を夢見る少年・彰彦と鉄の義手をもつ久夫の間に不思議な友情が生まれる。が、彰彦と顔を合わせるたびに、久夫の体は衰えていき、義肢がかえって増えていく……。