特別企画
「銀魂」コミックス1巻発売20周年おめでとおおおおおお!
坂田銀時と各キャラクターとの関係性がおもしろい新感覚SF時代劇コメディを振り返る
2024年4月2日 00:00
- 【「銀魂」第1巻】
- 2004年4月2日 発売
集英社のマンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」で2003年から2018年まで空知英明氏によって連載されていたSF時代劇コメディマンガ「銀魂」が2004年4月2日に第1巻が発売されて本日で20周年を迎える。
本作は天人(あまんと)と呼ばれる宇宙人たちに襲来を受けた地球が舞台で、その中で天人たちが地球に降り立つターミナルがあるかぶき町がメインの場所となっている。
主人公は「坂田銀時(さかたぎんとき)」で銀時が営む「万事屋銀ちゃん」のメンバーとかぶき町に暮らす人々たちを中心に様々な出来事が起こっていく物語となっている。登場するキャラクターたちが様々な実際の偉人をモチーフとして描かれており、真選組のように時折歴史に基づいたエピソードも描かれている。また、連載当時の時事ネタや当時の流行りなどもパロディとして取り入れられていたりと、読み返してみると当時の世相を思い返すことができる。
そんな本作はアニメ化もされ、アニメ映画化もされ、実写映画化もされるほど人気が高く様々な世代の人に読まれ愛されている作品だ。
本作の魅力を一言でいうなら、銀時の求心力と銀時たちがピンチに陥った時に今までに出会ったキャラクターたちが助けに来てくれる関係性だと思う。また銀時自身もボケるが、桂に対してはツッコミ役、マダオだと同系列のまるでダメなお侍さんといった形で絡むキャラクターによって立場が変わるのもまたおもしろい。
かなりだらしない主人公ではあるが、不思議と憎めず人を惹きつける魅力がある。そんな銀時を中心に物語が進んでいくので、どんなシリアスな場面で窮地に陥っていても「もしかしたら」と思いながら読めるのも、本作ならではの楽しみ方かもしれない。
主人公坂田銀時を中心に回る人間関係がおもしろい
本作は江戸時代末期を舞台に、地球にやって来た宇宙人・天人によって支配された世界が描かれている。この世界では町の人々は髷(まげ)を結い着物で生活しているが、街中は昔ながらの建物と近代的な建物が混在している。街の男性たちは侍のような姿ではあるが、廃刀令により刀を持つことは許されていない。
主人公の坂田銀時は、かつての天人たちとの戦争「攘夷戦争」で活躍し、白夜叉とまで恐れられた侍だが、現在は「万事屋(よろずや)」という便利屋を営み、小銭を稼ぎながら様々な依頼をこなして生活している。万事屋では志村新八、神楽といった個性的な仲間とともに依頼人たちが持ち込んだ事件を揉みまくってめちゃくちゃにしたり、時にシリアスに解決したりとドタバタ劇を繰り広げる。
本作では、シリアスなストーリーのほかにその時々で流行ったものや人物、ジャンプで連載されていた漫画のパロディ、下ネタなど様々な要素を含み、読んでいる読者を飽きさせない展開となっているのも特徴だ。
今回はそんな何でもありの世界を彩るキャラクターたちの一部ではあるが紹介したい。
・ 坂田銀時(さかたぎんとき)
本作の主人公で銀色の天然パーマと死んだ魚の目が印象的な男性。廃刀令が出ているが腰に木刀を携えている。かぶき町で「万事屋銀ちゃん」を営んでいる。天人たちとの戦争で活躍したかつての攘夷志士であり、白夜叉と恐れられた人物でもある。基本的に怠け者だが、求心力があり関わった人たちから信頼を寄せられる不思議な人物。
・ 志村新八(しむらしんぱち)
実家が剣術道場を営んでいるが、廃刀令もあり門下生もいない状態でアルバイトをしていた。銀時と出会ったことで、アルバイトをクビになり「万事屋銀ちゃん」で働くことになる。ぱっとしない見た目ではあるが、切れのあるツッコミが持ち味の青年。
・ 神楽(かぐら)
天人で宇宙最強を誇る絶滅寸前の戦闘種族・夜兎族(やとぞく)の生き残りの少女。オレンジ色の髪と白い肌、チャイナ服が印象的な本作のヒロイン。戦闘種族というだけあり、非常に強く、力も強い。また大食漢で口が非常に悪いのも特徴。やくざから逃げてきたところを銀時の運転するスクーターに撥ねられたことをきっかけに「万事屋銀ちゃん」でアルバイトとして住み込みで働くことになる。
・ お登勢(おとせ)
万事屋銀ちゃんが入っている建物の大家であり、スナックお登勢のママでもある。家賃を滞納する銀時を叱るものの、とても情に厚く面倒見が良い。かぶき町を牛耳るかぶき町四天王の1人で「女帝 お登勢」という異名も持つ。天人たちとの戦争「攘夷戦争」で夫である寺田辰五郎を亡くしている。
・ 桂小太郎(かつらこたろう)
銀時の昔馴染みの1人で攘夷志士仲間で異名は「狂乱の貴公子」という長い髪が特徴的な男性。その言動は少し理解に苦しむことも多い。天然ボケと想像の斜め上を行く行動力もあり、銀時を度々振り回す。
・ 高杉晋助(たかすぎしんすけ)
桂と同じく銀時の昔馴染みであり、攘夷志士仲間だった。恩師の死をきっかけに恩師を殺害した幕府を転覆させるべく鬼兵隊を復活させる。
・ 近藤勲(こんどういさお)
武装警察「真選組」の局長を務める男性。非常にお人よしなところがあり、基本的に人のいいところだけを見る。新八の姉の妙に優しくされたことから一方的に好意を寄せており、ストーカー化する。
・ 土方十四郎(ひじかたとうしろう)
真選組の副長。端正な顔立ちだが、無愛想で好戦的な性格。極度のマヨネーズ好き。銀時とはライバルのような立ち位置にいる珍しい存在。
・ 沖田総悟(おきたそうご)
真選組一番隊隊長。いたずら好きで好戦的なドS気質。銀時と気質が合うため、2人が組むといたずらばかりしている。
・ 長谷川泰三/マダオ(はせがわたいぞう/まだお)
元は政府官僚の偉い人だったが銀時に仕事を依頼し、ある意味失敗に終わったことから職も家庭も失ったことで、無職のまるでダメなおっさん(通称:マダオ)になる。彼と絡むと途端に銀時もおじさん臭くなるというか、同系列のまるでダメなお侍さん扱いされている。
第1巻ではお馴染みのキャラクターたちと銀時が出会う
本作では様々なエピソードがあり、コメディ・パロディに特化したものからしっかりとしたシリアス展開のものまで、作品の中でもいろいろなジャンルを楽しむことができる。中にはアニメ映画だけでなく実写映画でも映像化された有名な「紅桜編」などもあり、エピソードとして知っている人も多いのではないだろうか。
20年前に発売された第1巻のコミックスでは、万事屋銀ちゃんのアルバイトになる新八、神楽の出会いと長谷川泰三(のちのマダオ)の失職、銀時の昔馴染みの桂との再会、真選組の登場など、これから巻き起こっていくかぶき町での出来事に欠かせないキャラクターたちと銀時が出会う。加えてお登勢や新八の姉の妙なども登場し、かぶき町で銀時がどのような環境で生きているかが序盤で少しわかるようになっている。また、天人も複数登場し、「銀魂」における江戸がどうなっているかよくわかる巻でもある。
1巻ではまだ銀時はそこまで死んだ魚の目をしていないし、マダオはしっかり働いている。そして桂はテロリストの様相が強い。1巻以降だんだんと変わっていくおじさんたちもまたおもしろい。
坂田銀時とかぶき町との繋がりを強く感じられるエピソード
そんな数あるエピソードの中から今回筆者が推したいのは「かぶき町四天王編」だ。本エピソードはコミックスの34巻に収録されている第297訓「無法な街に集うはキャッホーな奴ばかり」から35巻の第309訓「お控えなすって!!」までという少し短いエピソードだ。
この「かぶき町四天王編」はかぶき町を牛耳る四天王と呼ばれる女帝「お登勢」、孔雀姫「華蛇(かだ)」、鬼神「マドマーゼル西郷」、そして本エピソードから登場する大侠客「泥水次郎長(どろみずじろちょう)」の4すくみの状態で保たれていた均衡が少し揺らぎだしたかぶき町で起こる。四天王がお互いににらみを利かせ、どこかの勢力が不祥事を起こしたら他の3勢力が全力で潰しにかかるという取り決めが華蛇を中心に決められる。
そんな中、銀時の前に現われた謎の少女「椿平子(ちんぴらこ)」が銀時の舎弟になりたいと申し出る。半ば押しかけのように万事屋に来た平子は元極道の鉄砲玉であり、自身がいた組を潰した泥水次郎長に復讐したいと申し出る。そして平子と銀時が泥水一家と揉めたことにより四天王の均衡が崩れ、かぶき町が4勢力による戦争の舞台となるといったエピソードだ。
このエピソードは短いながらも坂田銀時がかぶき町に流れ着き、お登勢と出会い、かぶき町に根を下ろして暮らしてきた中で培った繋がりを感じられるものになっている。連載当初から登場していたお登勢だが、家賃を滞納している銀時に対して、言葉は荒いものの追い出すわけでもなく、銀時もお登勢に対し非常に口は悪いがどこか信頼を寄せていた。そんな2人の関係性を深く知り、この2人を巡るかぶき町に住む人たちの対応も楽しむことができるエピソードでもある。
正直このエピソードのどこを推したいというというよりは、このエピソード自体が重要なエピソードだと感じている。かぶき町に住む今の坂田銀時を象徴しているものであり、お登勢と関わった坂田銀時率いる万事屋に出会ったかぶき町の住人たち全体のエピソードでもあるように感じる。なので本エピソードには銀時の昔馴染みの桂や高杉、真選組、吉原の面々などは登場しない。あくまでもかぶき町に暮らす人たちがメインとなっているエピソードとなっている。
人間模様も銀時とお登勢、お登勢と次郎長、銀時と平子、平子と次郎長、銀時と次郎長とお登勢の夫で故人の寺田辰五郎というそれぞれへの思いがストレートに伝わるエピソードとなっており、複雑さもないため読んでいる読者に対してもキャラクターの気持ちが真っ直ぐ伝わってくるのがまたいい。
今回は「かぶき町四天王編」を取り上げたが、本作はシリアスなエピソードもコメディのエピソードも1つ1つがおもしろく、読者によってこのエピソードが好きというのがいくつも出てくる作品だと思う。コミックスは全77巻とかなり多いが、ぜひ興味がある方は今からでも手に取って読んでみてほしい。
(C)空知英秋/集英社