レビュー
アンタ、嘘つきだね……エイプリルフールに読みたいギャンブルマンガの金字塔「嘘喰い」
命がけのウソで世界を騙すダークヒーロー
2025年4月1日 00:00
- 【嘘喰い】
- 著者:迫稔雄
- 連載:週刊ヤングジャンプ(集英社、2006年~2018年)
- 既刊:49巻(完結)
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世間の人々が“ウソ”を大盤振る舞いする特別な1日、エイプリルフール。うっかり騙されないようにするには、あらかじめレベルの高いウソに触れて耐性を付けておくのがいいかもしれない。そこで今回オススメしたいのが、実写化もされた大ヒットマンガ「嘘喰い」だ。
命を賭けて騙し合う! 衝撃のギャンブルマンガ
本作は迫稔雄氏が2006年から約11年にわたって「週刊ヤングジャンプ」で連載していた作品。2022年2月には横浜流星さんが主演を務める実写映画が公開された。
物語は闇金の取り立てに追われる青年・梶隆臣が、謎の男・斑目貘と出会うところから始まる。馬鹿正直な生き方で損ばかりしていた梶だったが、ギャンブルの天才である貘に導かれ、闇の世界へと足を踏み入れていく。
2人は作中で、色々なルールのギャンブルに挑むが、そのレートは一般人では到底支払えないような法外なものばかり。しかも金銭のやりとりだけでなく、ほとんどはお互いの“命”を賭けた勝負となる。
また闇の世界の賭け事なので、勝敗は運頼みでは決まらない。基本的にはバレなければ何をやってもいいという、イカサマ上等のゲームとなっている。すなわち相手がウソを吐いていることを前提として、高度な心理戦が繰り広げられるのだ。
そこで無類の強さを発揮するのが、主人公の貘。相手のウソを見抜く能力に長けている彼は、“嘘喰い”の異名で恐れられており、どれだけ巧妙なイカサマであってもたちまちその仕掛けを見抜き、自分の勝利のために利用してしまう。勝利を確信したときに発する「アンタ、嘘つきだね」という決めゼリフには、たまらないカタルシスがある。
たとえば単行本4巻から始まる「ハングマン」は、貘と革命家・佐田国一輝が対決したギャンブルであり、衝撃的な騙し合いの模様が描かれていた。
ゲームとしてはシンプルなババ抜きなのだが、ババのカードに数字が記されており、その合計が11に近づくにつれて首吊り装置が組み立てられていく。つまり敗北が死に直結するという恐ろしいルールだ。ちなみに2人は命だけでなく、それぞれ25億と10億という巨額を賭けて勝負に挑む。
貘はいつもの調子で巧みに心理戦を仕掛けるものの、佐田国はブラフや駆け引きなど一切通じないと宣言。そしてなぜかババを一向に引かず、順調にペアを完成させていき、たちまち2連勝してみせる。
あとわずかで死亡が確定するところまで追いつめられた貘は、焦ったような表情で、20分のあいだカードを引かずに粘り続ける。そんな素振りに佐田国はしびれを切らし、抗議の結果、時間制限1分という新たなルールが追加されることに。ところがゲームが再開すると、佐田国が初めてババを引くという異変が起きるのだった。
逆転を始めた貘だったが、さらにはゲームの最中に平然と相手のカードを覗き込むという衝撃の光景が描かれる。実は佐田国のイカサマを破るため、貘は着実にイカサマ破りのトリックを仕込んでいたのだ。彼らがいかにしてお互いを騙していたのか、その驚きの内容はぜひ実際に読んで確かめてみてほしい。
世界を丸ごと騙すほどのウソ
なお作中で描かれるウソは、とにかくそのスケールが大きいことが特徴。ギャンブルの最中だけでなく、“生きることそのもの”がある種の騙し合いとして描かれているからだ。
そもそも本作のギャンブルは、基本的に「賭郎」(かけろう)と呼ばれる組織によって取り仕切られる。この組織に所属する立会人と呼ばれる人々は、フェアなルールで勝負が成立するように監視し、勝敗が決した際には絶対的な取り立てを行なう。
「賭郎」はたんなるギャンブルの元締めのようなものではなく、国家レベルの権力と暴力を合わせ持ち、国の中枢にまで食い込んでいるという驚異的な組織だ。
また「賭郎」の会員たちがやることもスケールが大きく、佐田国は貘と対決する裏で、極秘裏に仕入れたロケットを国内で放ち、大規模なテロリズムを起こそうとしていた。
さらに貘と「賭郎」のあいだには、深い因縁がある。かつて賭郎のトップ・お屋形様と戦う「屋形越え」に挑戦し、敗北したことがあるという。一体なぜ貘は敗北したのか、そしてなぜふたたび「屋形越え」のリベンジに挑もうとしているのか……。そこには世界を丸ごと騙すようなウソが隠されている。
圧倒的な暴力が支配する世界
もう1つ本作で重要なのは、“暴力”の存在感だ。闇の世界では当然警察や法律には頼れないため、ギャンブルの敗者が暴力によって取り立てに反抗することもある。そのために存在するのが立会人で、銃ですらものともしない武力で取り立てを行なう。
ただ立会人の地位も盤石ではなく、超人的な殺人マシーンのロデムや立会人以上の実力をもつ黒耳の捕食獣・カラカルなど、さまざまな猛者たちが登場。さらには立会人同士でも、“號”という強さの序列を賭けて殺し合う「號奪戦」が繰り広げられていく。いわば力が支配する弱肉強食の世界と言えるだろう。
しかしそんな世界観だからこそ、口先で人を騙すだけで生き残っていく貘のあり方はなおさら輝く。その生き様自体が、暴力だけが強さではないことを証明しているように見えるからだ。
そしてそんな貘の影響を受けて、強者の食い物にされるだけだった梶がしたたかで強いギャンブラーに成長していくところも、大きな見どころとなっている。
数あるギャンブルマンガのなかでも、最高峰の完成度を誇っている「嘘喰い」。巧妙でずる賢いウソの数々を貘が“喰らう”姿は、爽快感に満ちている。ぜひこの機会に手に取って、本作ならではの魅力を味わってみてはいかがだろうか。