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【年末特集】童貞喪失絶対阻止!!”ブラッディ・ラブコメ”「ババンババンバンバンパイア」がはちゃめちゃで面白い!

目まぐるしく飛び交う”矢印”が笑いを生む新感覚BL作品

【ババンババンバンバンパイア】

既刊8巻(秋田書店)

別冊少年チャンピオンにて連載中

 昨今、多様性を容認する風潮が当たり前になった中、男性同士の恋愛を描く「BL(ボーイズ・ラブ)」というジャンルも、以前に比べると随分と世間に浸透した。

 その流れを象徴するように、2016年に放送されたテレビドラマ「おっさんずラブ」は、日常を感じるほっこりとしたストーリータッチで人気を博した。そしてつい最近は、井上佐藤氏による男性同士の官能的な恋愛を描いた「10DANCE」が2025年にNetflixで実写映画化されることが発表され、20年ほど前は秘匿性の高かったジャンルとは思えないほど、大衆向けのエンタメとして広がっている。

 そんな昨今のテレビや漫画の日常系BLブームの中に、異色の設定で新たな風を吹かせている作品がある。少年誌ではあまり類を見ないBL作品として2021年に連載開始後、斬新な作風が話題を呼んでいる「ババンババンバンバンパイア」だ。

 「ババンババンバンバンパイア(※通称「バババ」)」は、奥嶋ひろまさ氏により「別冊少年チャンピオン」(秋田書店)にて2021年11月号より連載されている作品。創業60年の老舗銭湯「こいの湯」を舞台に、その4代目主人・立野李仁と、瀕死の状態を救ってくれた李仁への恩返し、そして彼の18歳童貞の血を味わうため、彼の童貞を守り抜こうとするバンパイア・森蘭丸のラブ・コメディが展開されていく。

 作品ジャンルとしては「BL」ではあるのだが、所謂ボーイズ・ラブではなく「ブラッディ・ラブコメ」というキャッチコピーで打ち出しているところが、本作の一風変わった作風を象徴している。また、李人が18歳になるまで「童貞喪失を阻止する」という目的を持つ主人公・蘭丸のまさかの馬鹿馬鹿しい動機と、ドタバタとすれ違う恋模様が笑いを誘う。

 本作の魅力はなんといっても、「BL」というジャンルでありながら、ユニークで独特な世界観、ピュアすぎる魅力的なキャラクター達によるテンポの良い会話劇、はちゃめちゃな恋の相関図というラブコメ展開で、男女問わず楽しめてしまうところだろう。今回はそんな新感覚BL(ブラッディ・ラブコメ)「ババンババンバンバンパイア」の魅力をご紹介したい。

【あらすじ】

創業60年の老舗銭湯「こいの湯」で住み込みバイトをしている森蘭丸。
彼は、人の生き血を啜る正真正銘のバンパイアだった。
蘭丸の目的は、自分の命を救ってくれた「こいの湯」の4代目・立野李仁への恩返し。
そして…彼の「18歳童貞の血」を味わうこと…!
現在15歳の李仁が熟すまで、あと3年。
しかし入学早々、李仁は同級生の女子に一目惚れしてしまう。
はたして蘭丸は、念願の「18歳童貞の血」を守り通すことができるのか…!?

美麗な絵柄からは想像もつかない作中のテンション

 筆者は元々積極的にBL作品を読む方ではなかったが、本作を読むきっかけになったのは表紙の絵柄だった。タイトルのパロディ的なインパクトもさることながら、美しいタッチで描かれた美青年が、ビジュアルに似つかわしくない昭和を感じる銭湯に立つ姿に目を惹かれた。

 作り込まれた独特な表紙の世界観からはなんとなくアングラな印象すら感じて、若かりし頃地元のヴィレッジバンガードで、ニッチなマンガを発掘した時のような高揚感を思い出した。しかし、読み進めると「ニッチそう」という勝手な予想は外れ、想像以上にコメディで親しみやすいカジュアルなボーイズラブであったことに面食らった。

 これだけしっとりとした雰囲気の繊細な作画にも関わらず、ラブコメならではの片思い・すれ違いがはちゃめちゃに交差していて、笑いを引きずりながら次のページをめくれてしまう。吸血鬼の美青年が「18歳の少年の童貞喪失阻止のために奮闘する」という素晴らしくくだらない動機と行動力に、たった1巻ですっかり心を鷲掴みにされてしまった。繊細な画力と、突き抜けた斬新な感性を持ち合わせた奥嶋ひろまさ氏だからこそ打ち出せる世界観に違いない。

「バンパイア×銭湯×BL」架空とリアルが混ざり合う独特な設定と世界観

 本作は「銭湯で働く吸血鬼」という異色の組み合わせ、さらにBLという設定が加わることによって個性がより色濃くなっている。主人公・蘭丸が狙う相手が女性ではなく童貞の少年というだけでも新鮮だが、同じ童貞の血でも童貞に対する拘りが異常に強く、彼は最早「童貞オタク」に近い。耽美系のイメージが強い吸血鬼が、少年誌で連載するBLの主人公としていい具合に料理されている。

 さらに作中には、バンパイア同士、バンパイアとバンパイアハンターのバトルシーンなど、非日常的なファンタジーアクション要素もある。これだけ設定を盛り盛りにしておきながらも、銭湯がメイン舞台になっていることで、どれだけドタバタしても全てがギャグに収束してストーリーとしておさまっていく。

 筆者は一騒動の後、蘭丸が李人や李人の家族とこいの湯で湯に浸かったり、夕食を取ったり、寝る前に「おやすみなさい」と挨拶をするシーンが特に好きだ。これだけ設定が暴れていても不思議と日常的な親しみやすさも感じるし、読んでいるとなんだかんだ平和な世界に癒される。

 ヴィランのイメージが強いバンパイアが人間社会に溶け込み、人の温かさの中で生きているチグハグな生活風景は、作品を通して現代の多様性を感じる部分でもある。

目的はただ一つ、大好きな李人くんの「18歳童貞の血」だが……主人公・蘭丸が持つ魅力

 主人公は老舗銭湯・こいの湯で住み込みバイトをする森蘭丸。元は織田信長の小姓だった450歳のバンパイアだ。あの森蘭丸をバンパイアにしているところも和洋折衷で本作の個性を感じる。

 作者の奥嶋ひろまさ氏は蘭丸について「せっかく吸血鬼で長生きなんでね。普通に450年生きてきましたっていうよりも、しっかりと表舞台で活躍して歴史に関与していた方が面白いなっていう発想です。彼を森蘭丸にしたのは、歴史上の人物で美少年で誰かいたかな? っていうのと、織田信長が男色家だったみたいな話があったので......。男色家の話とBLを結びつけるのは良くないなと思うのですが、そこから着想を得ました」と「Real Soundブック」のインタビュー(参考)で語っている。

 ビジュアルは誰もが憧れるかっこいいバンパイアの姿なのだが、李人が好きすぎることによる変態的な行動と限界発言が終始笑いを誘う。しかし、死ねない体故に、愛する人を目の前で失う悲しみを抱えて生きてきたという影も持ち合わせるなど、かなりピュアで誠実というギャップも持ち合わせている。

【森蘭丸】
450歳のバンパイアでかつて織田信長に仕えた武士。10年前とある組織に追われボロボロになっていたところを李人に救われた。以来、李人の実家である銭湯・こいの湯で住み込みバイトとして働いている。血の好みにうるさく「18歳童貞の血」を至高とし、李人が18歳になるまで李人の童貞を守り続けている。人間と共存する道を選んだため普段は罪人の血しか吸わない
【立野李人】
15歳の高校生で蘭丸が住み込みバイトをする老舗銭湯・こいの湯四代目。幼い頃死にかけていた蘭丸と偶然出会い「こいの湯」に蘭丸をかくまった。蘭丸のことを兄の様に慕っているが蘭丸が自身の18歳童貞の血を狙っていることを全く知らない。かなり純粋で天然。蘭丸がバンパイアだと正直に話すが全てジョークだと思っている。同じ学校の篠塚葵が初恋の相手

 迷言や名(迷)シーンに事欠かない本作だが、続いては本作の魅力の中心となる主人公・森蘭丸の印象的なシーンをご紹介したい。

「なぜピンと来ない!!」(コミックス1巻/P95)

 李人の童貞喪失の危険因子である葵の自宅へ敵情視察をしに行った蘭丸は、李人への気持ちを確かめるべく葵に対して誘導尋問を試みる。しかし、李人の魅力に気付いていない葵についうっかり魅力を熱弁してしまうシーンだ。

【篠塚葵】
李人と同じ高校に通う李人の初恋の相手。自らバンパイアと名乗ってしまい苦し紛れに言い訳する蘭丸の発言を信じるなどこちらもかなり純粋な女の子。李人に惚れているのか確認しにきた蘭丸のことが気になっている

 李人を好きすぎるが故に、恋敵に対して自ら李人の魅力を布教してしまっている蘭丸の限界行動が面白い。「なぜピンと来ない!!」のセリフのコマではとてつもなく良い顔をしており、筆者は本作を好きになる一番最初のキッカケとなった。

推しの良さを理解してない知人や友人に魅力を熱弁する自分のテンションを思い出してしまう。限界を感じるほどの推しがいる人は蘭丸の行動や発言に共感してしまう人もいるのではないだろうか……(コミックス1巻)

「良かった…李人くんの中にまだ 私の居場所があった」(コミックス4巻/P200)

 毎年李人との夏祭りを楽しみにしていた蘭丸だったが、李人が高校生になり友達と夏祭りを楽しむ様子を見て成長と寂しさを感じていた。祭りが終わり、自宅のこいの湯に着くと、李人から祭りの後の2人の恒例である「線香花火」をしようと誘われる。2人の時間を覚えていてくれたことに喜びを感じる蘭丸の一途さに少しうるっとさせられるシーンだ。李人の「18歳童貞の血」が目的ではあるが、こういった蘭丸のピュアな一面が時折差し込まれることで、ラブコメならではの純愛要素もしっかり感じられる。

純愛を感じる展開でぐっとさせつつも、蘭丸の蘭丸が興奮する変態的なシーンも度々あるのでコントラストが激しい本作。本当に絵面にも展開にも飽きが来ない(コミックス4巻)

「私が怖いのは自分が死ぬことではない 私の愛する人がこの世から いなくなることです」(コミックス8巻/P107)

 バンパイアハンター隊長・芹沢雷蔵と対峙した際に「お前らは死が怖くないのか?」と問われた蘭丸が「怖くはありません」と発言するシーンだ。人間からバンパイアとなってしまった蘭丸の死生観を感じるセリフが胸を打つ。過去の時代で大切な人の死を何度も見てきた蘭丸の切なくも強い意志には、コミカルなキャラクターながら齢450歳という人間としての深みを感じてしまう。

結果としてバンパイアハンターの隊長である芹沢にすら「見逃してやる」と言わせた蘭丸だが、全てが李人の「童貞の血」をいただくためだけに立ち回っているところが面白い(コミックス8巻より)

 李人と過ごせば過ごすほど「長く一緒にいたい」気持ちと「早く18歳童貞の血を吸いたい」という気持ちがせめぎ合う。表向きには変態的な行動の多い蘭丸だが、過去や李人への気持ちの葛藤も描かれており、様々な表情を見せながらストーリーに笑いと深みを与えていく魅力的な主人公だ。

勘違いによって交差していく複雑な人物相関図

 作中では蘭丸をはじめ、ほぼ全キャラクターが勘違いを炸裂させながらストーリーが展開していく。この勘違いから発展するぐちゃぐちゃな相関図こそが本作の醍醐味であり「ブラッディ・ラブコメ」たる所以だ。

 例えば蘭丸は、李人の初恋である葵が李人のことを好きだと勘違いして敵視しているが、実は葵は蘭丸に恋をしている。バンパイアハンター・坂本梅太郎は、本来であれば祖先の敵で抹殺対象であるはずの蘭丸に恋をしてしまっている。はたまた葵の兄・篠塚健は蘭丸を兄貴として慕っている…などなど、相関図の”矢印”が目まぐるしく飛び交い、ちょっとした出来事や発言による勘違いから常に変化していく。

 矢印の方向性が度々変化していくこともあって、作者の奥嶋ひろまさ氏は自身のXで相関図を更新しているほどだ。だが、この目まぐるしさが、王道のラブコメにある勘違いとすれ違いのもどかしさを200%で楽しませてくれる。

 特に筆者は、バンパイアハンターである坂本梅太郎と蘭丸の関係性が気に入っている。猛烈な熱量で蘭丸にアピールする坂本だが、李人にしか興味のない蘭丸に毎度軽くあしらわれる様子に不憫萌えしてしまう。ビジュアル的にも関係性的にもストレートにボーイズ・ラブ要素を感じる組み合わせなのだが、本作ではコメディタッチで気持ち良いくらいに残念に描かれているところも魅力の一つだと感じた。

【坂本梅太郎】
李人と葵の担任教師。坂本龍馬の子孫で本職はバンパイアハンター。蘭丸に祖先である坂本龍馬を殺されたと勘違いして敵討ちをするつもりだったが、蘭丸に恋してしまい、血を吸われることが目的になってしまった

 他にも「勘違い」は相関図を動かすだけでなく、キャラクター達の個性が光る瞬間でもある。コミックス8巻でバンパイアハンターの芹沢がブレーキランプを5回点滅させるシーンで、「サヨウナラ」、「アイシテルぜ坂本」、「また来るぜ」、「愛してるのサイン」、「愛してる」、「ヒゲゴリラ」と各キャラクター達それぞれが脳内で独自解釈している。たった1ページでこんなにキャラクターの個性を出せるのかと改めて驚いた。どうしてそんな方向に?!という様々な「勘違い」を上手く絡めていく技術に、純粋にマンガ家という職業の凄まじさを感じる。

親しみと懐かしさを感じるパロディ要素と言葉遣い

 会話劇から繰り広げられるギャグもあれば、楳図かずおやガラスの仮面、TM.R…作中では随所にパロディ要素も散りばめられている。懐かしさを感じるギャグは絶妙なリズムを生み、作品の独特な世界観だからこそ絶妙なバランスでフィットしている。元ネタが少々古い作品も多いため、これらを知らない世代には刺さらないギャグやノリもあるかもしれないが、本作はこれがやりたくてやっているような、そんなロックさすら感じるグルーヴを持っている。そもそもタイトルがドリフのパロディであることからもその勢いがわかる。

 筆者は世代的にも、シンガーソングライター・YUIさんの「CHE.R.RY」をパロった坂本梅太郎のセリフ「恋しちゃったんだ!たぶん 気付いてないでしょうけど!」で盛大に1本取られてしまった。特にシチュエーションとタイミングがズルいシーンなので、あえて詳細は伏せさせていただくが、是非本編で見ていただきたいところだ。

 もちろんそれだけではなく、今っぽい感覚のリアルな言葉遣いに笑わされるシーンもある。中でも蘭丸の「イイ!イイ過ぎる!やはり李人くんはイイっ!!」というセリフは、好きの限界突破を感じる現代的なオタクのワードチョイスに共感して顔がニヤついてしまった。作者の奥嶋氏は「Real Soundブック」のインタビュー(参考)で「蘭ちゃんの言葉は腐女子の方を参考にさせていただいていますね。」と語っていることもあり、納得がいくセリフの生命力だ。

 本作のミクスチャー的な笑いの要素からはあらゆる時代の世相を感じられ、マンガの素晴らしいところはこういう部分でもあると筆者は改めて思う。ノスタルジックなノリから今っぽく親しみやすいノリまで、テイストの異なる笑いを楽しめるのも本作の魅力だ。

 斬新な作風でいくつもの魅力を放つ本作は、2025年にテレビアニメ化・実写映画化が決定している。アニメ版のキャストには、主人公の森蘭丸役に浪川大輔さん、立野李人役に小林裕介さんなど豪華声優陣が名を連ねている。過去にも蘭丸と同じく股間を光らせがちなキャラクターを好演した浪川大輔さんだけに、アニメ版の蘭丸にも期待が高まる。

【TVアニメ『ババンババンバンバンパイア』第1弾PV│2025年1月放送開始】
2025年1月より毎週土曜夜11:30~テレビ朝日系列にて放送予定。

 また、実写映画版のキャスト陣には、蘭丸役に吉沢亮さん、李人役に板垣李光人さんなどこちらも豪華俳優陣が決定している。いずれも原作での際どい描写がどこまで再現されるのか気になるところだが、2025年は「バババ」が大きく展開される年になることは間違いないだろう。

【映画『ババンババンバンバンパイア』【特報】2.14(金)バレンタイン公開】

 「ババンババンバンバンパイア」は、昨今トレンドの日常系BLに、バンパイア×銭湯×ラブコメというスパイスが加わった新しいタイプのボーイズ・ラブ作品、いやブラッディ・ラブ作品だ。本作に登場するピュアで真っ直ぐなキャラクター達を見ていると「何を好きだっていいじゃないか、自分の好きなものを恥じる必要はない」そんなカラッとした明るい気持ちになれる気がする。

 来年のアニメ化・実写映画化の前に、まずは本作を読んで、原作ならではの独特の世界観とテンポ感を楽しんでいただきたい。平和でコミカルな世界に気持ちがほぐれて、湯上がりのように心温まるはずだ。