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【夏休み特集】バンダイ生まれコロコロ育ちなハイパーヨーヨーが令和に復活するので「超速スピナー」を読み返してみた

自己研鑽型のヨーヨーでバトルする構成の巧みさやみんな大好き霧崎マイについて

 バンダイ生まれコロコロ育ち、かつての子どもたちが熱狂した往年の大ヒットホビー「ハイパーヨーヨー」が復活するのをご存知だろうか。日本でも古くから親しまれてきた伝統的な玩具・ヨーヨーをスタイリッシュに新生させたハイパーヨーヨーが新商品「ハイパーヨーヨーアクセル(HYPER YOYO ACCEL)」となって令和に帰ってくる。

 その最大の特徴となるのは、日米で特許出願済みの新機能・アクセルシステム。メタルベアリングを中央にひとつ、両面のボディに各ひとつずつと計3つ配置し、手に持ったままストリング(糸)を引くことでボディ内部のディスクが回転するというギミックだ。そんなハイパーヨーヨーアクセルの第1弾ラインナップ「アクセルオリジン」(全9種)が、本日7月20日から発売となった。

 まずは「ハイパーヨーヨーアクセル」の紹介から入ったが、この記事の本題はもちろんそれではない。1997年に発売され、当時全世界で累計販売数3,000万個を達成したハイパーヨーヨー。本邦では大手量販店でも商品の売り切れが続出するという社会現象も起きるなど、そのムーブメントの立役者となった小学館のマンガ「超速スピナー」について語りたいのだ。

【HYPER YOYO ACCEL(ハイパーヨーヨーアクセル) オフィシャルPV】

累計販売数3,000万個達成の立役者「超速スピナー」

 「超速スピナー」は1997年から2000年にかけて、小学館の「月刊コロコロコミック」にて連載されていたマンガ作品。作者は漫画家の橋口たかし氏(橋口隆志氏)だ(余談かつお恥ずかしい話だが、同氏が「焼きたて!!ジャぱん」、「最上の命医」などで知られるあの橋口たかし氏であることに、この記事を書くにあたり初めて気がついた)。運動神経バツグンで、様々なスポーツで助っ人をしている小学生・堂本瞬一が、全国大会を連覇するほど圧倒的な実力を持つライバル・北条院聖斗との出会いをきっかけに、ヨーヨーの世界へとのめり込んでいく。

 バンダイのハイパーヨーヨーの発売にあわせ連載が行なわれた作品でもあり、コミックスとしては全7巻が販売されている。

こちらの画像は橋口たかし氏の公式Xにて公開されたもの

ヨーヨーをバトルホビーとして見せる構成の巧みさ

 ここまで前置きが長くなってしまったが、この記事の主旨としては連載当時の思い出話というよりは、ハイパーヨーヨーアクセル発売にあわせ、本作を改めて読んでみた感想としてのウエイトに寄っている。もちろん筆者も連載当時にコロコロコミックで本作を読み、ハイパーヨーヨーにハマったうちのひとりで、夏休みにはお出かけ先にまでヨーヨーを携帯しトリックを練習していたような少年だったが、なにぶん小学生の時分だったので内容はほぼ忘れてしまっていた。あの頃と比べ便利な世の中になったもので、Amazonが販売する電子書籍・Kindleで購入後すぐに読めるほか、コロコロ公式のWebサービス・コロコロオンラインでも毎週月曜更新・最新3話無料公開で配信がスタートしている。

 さて、いざ読み返してみて大きく印象に残ったのは、“ヨーヨーをバトルホビーとして見せる構成の巧みさ”だ。「ミニ四駆」や「ベイブレード」などに代表されるような小学生をメインターゲットにした低年齢層向けのホビーでは、他者と競い対決をすることがその醍醐味として据えられている。その一方でヨーヨーは技を練習し、トリックを達成する充足感を楽しむことが主となっており、本質的に対戦ではなく自己研鑽型の遊びだ。いってしまえばマンガ映えしないヨーヨーという商材を扱いながら、子どもたちの興味を引くための見せ方が非常に上手い。

当時世界で活躍したプロスピナー・中村名人も本作に登場しており、大会では解説を務めるなどホビーマンガには不可欠である“お兄さんキャラ”的なポジションを担っていた

 作中ではスーパーレベル、ハイパーレベルなど難易度によって区切られたトリックを消化する早さで勝負するのだが、その技の数々によってダイナミックに躍動するヨーヨーの動きを、創意工夫を凝らした構図や画力の高さで描き切っている。また、その対決の最中では基本的に手足が使えない状態であるため、表情のみでキャラクターの感情やリアクションを描写することになり、ここで作者・橋口氏持ち前の魅力的な表情の描き分けが光る(流石は後に「焼きたて!!ジャぱん」の登場キャラクター河内恭介の“顔芸”を生み出した橋口氏である)。

 そのほか細かい点になるが、物語の導入となる最初のバトルを経た後、すぐ全国大会(JCC)へ舞台を移すという大胆に思える構成も見事だった。個人的にはその大会中、自身が乗ったボードをトリックを決めることで動かすという、レース風味に味変した展開も当時から強く印象に残っている(このエピソードで本性をあらわし始めた霧崎マイのせいな気もする)。

少年たちを“狂わせた”霧崎マイに代表される魅力的なキャラクターたち

 ちょうど名前が挙がったが、「超速スピナーといえば霧崎マイでしょ︕」というくらい、彼女の存在が脳裏に焼きついている方も少なくないのではないだろうか。北条院と対決するためJCCに向けて猛特訓を重ねるも、事前抽選が必要だったことを知らず、当日参加枠を争うことになった瞬一。その壁として立ちはだかった、優勝候補のひとりと目された輪刃剛志を本戦トーナメントで安々と下したダークホースが霧崎マイだった。

 特に目立った肩書きもなく、見た目は地味で大人しそうなふたつ結びのおさげ少女、そんな彼女がワルそうな笑みを浮かべたあのコマの衝撃ときたら……。強者ひしめく全国大会で無名のプレーヤーが活躍するという流れ自体は鉄板の展開だが、フィジカルの影響が多少なりありそう(直前まで瞬一が重いヨーヨー・ヘビーブレインを使って特訓していたことも前フリとなっている)なヨーヨーを使った競技で、しかも地味な女の子が実は強かったというのは当時相当な衝撃だった。それだけでなく徐々に明らかになっていく本性や、ノースリーブの服でヨーヨーをする時に見える脇、過酷な対決で汗だくになった姿など……彼女に“狂わされた”当時の少年は多そうだ。

 少し霧崎マイについて語りすぎてしまったが、要は橋口氏の手によって描き出された個性豊かなキャラクターたちも本作の大きな魅力のひとつだ。筆者はおデコを出してスポーツサングラスをかけてるタイプのキャラが妙に好き(例として「テニスの王子様」の室町十次)なのだが、そのスタート地点は間違いなく輪刃だし、なんなら見た目が地味なのにめちゃめちゃ勝ち気な女の子が好きになってしまったのも普通に霧崎マイのせいだと思う。

 主人公のライバルにあたる北条院は、才能が飛び抜けている代わりに病弱そうな印象のキャラだがそんなことはなくしっかり健康で、瞬一の持つヨーヨーの才能を初めから認めているという、この手のタイプにしては珍しいギャップがある。また、小柄で主人公の子分キャラになりそうな小暮宙太は実力者としての格が落ちなかったなど、大人になった今読み返してみると新たな発見がいくつもあった。

コミックス7巻表紙の中央左に描かれているピンク髪のキャラクターが霧崎マイだ。輪刃剛志は一番上に描かれている
画像は橋口たかし氏の公式Xにて公開されたもの

 本作は前述の通りKindleで購入できるほか、コロコロオンラインでも読むことができる。コロコロオンラインでは毎週月曜更新で最新3話が無料で読め、この記事が掲載された7月20日時点では配信済みの第5話まで全話無料だ。この機会にどっぷりとノスタルジーに浸りに行くのはどうだろうか。

実際に新商品となる「ハイパーヨーヨーアクセル」の発売に先駆けて中村名人も自身の公式Xを通じて情報を発信している