特別企画

アニメ「チ。」放送目前 地動説に魅入られた人々の生き様を描く「チ。ー地球の運動についてー」

コペルニクスより前に地動説を信じた人たちの物語の魅力を伝えたい

【アニメ「チ。―地球の運動について―」】

10月5日23時45分~ 放送開始

放送局:NHK総合

 小学館のビッグコミックスピリッツで2020年から2022年まで魚豊氏によって連載されていたマンガ「チ。ー地球の運動についてー」のアニメが10月よりNHK総合にて放送される。

 本作はタイトルについている通り、地球の運動つまり「地動説」がテーマとなっている。ただし、本作の主人公は地動説を提唱したコペルニクスが主人公ではない。むしろ、コペルニクスが生まれるずっと前からコペルニクスに至るまでの地動説を信じた人たちの物語だ。この登場人物たちは地動説を次の人へ次の人へと引き継いでいくが、彼らは歴史の教科書には登場しない人物たちという描かれ方をしている。

 一方で物語としては地動説が世に出て広まるという描かれ方ではなく、地動説に魅入られた人たちが迫害を受けながらも次の世代へと繋いでいく物語という形になっている。

 今回は「チ。ー地球の運動についてー」のアニメ放送開始に先駆けてどのような物語なのか、その魅力についてお伝えしたい。

【アニメ『チ。 ―地球の運動について―』本PV】

 ちなみに筆者が本作と出会ったのは、2021年だったと思う。書店で平積みされているコミックスを眺めていた時に金髪の青年とカタカナで大きく書かれた「チ」という文字に目が留まった。このチの下に書かれた「地球の運動について」という文字が目に入らなかったので、最初「チ」という文字から、さまざまなチと読む漢字が頭を巡った。「血」、「地」、「知」、「智」、「治」あたりが浮かんで、どれだろうかと興味が湧いて手に取った。その時にチの下に書かれていた「ー地球の運動についてー」を見て、「あぁ、『地』か」と思ったところまで覚えている。

 ちなみに本作の「チ」が表すところとしては「地」はもちろんだが、実は「血」、「知」も含まれている。日本語ならではのさまざまな想像を駆り立てるのもこのタイトルのおもしろいところだと感じている。

複数の登場人物たちが繋げていく「地動説」

 本作の始まりは15世紀のP国という架空の国だ。このP国ではC教という宗教により天動説が支持されている。そのため地動説は異端とされており、地動説を信じるものは異教徒扱いされ迫害される。また、地動説を研究しようとする者は異端審問官によって拷問され死に至る。

 そんな中でも地動説を信じ、地動説に魅入られ、地動説を証明しようと登場人物たちが奔走していく物語だ。

 本作はフベルトという男性が自身の研究である「地動説」を、最初の主人公ファラウに教えるところから始まる。ファラウは異端と知りながら研究し、その事実とその美しさに魅入られていく。そして、自分の命と引き換えにしても地動説を信じ、次の世代に託していく。主人公たちが天動説では感じなかった天体の真理を知った瞬間の感動を、自らの信念や想いも込めて次の世代へと繋いでいく物語となっている。

 本作は第1章、第2章、第3章、最終章と分けられており、それぞれに中心となる人物が異なる。今回はそんな登場人物たちを一部ではあるが紹介したい。

ラファウ
 本作の第1章の主人公。12歳で大学に進学する予定の神童で天文が好き。大学で神学を専攻する予定だったが、フベルトに教えられた地動説に魅入られる。

第1章主人公のラファウ

フベルト
 P国で信仰されているC教が禁忌とする「地動説」を研究していた。ラファウに全てを託し火刑に処せられた。

オクジー
 第2章の主人公の1人。決闘を行なう貴族の代理で戦う代闘士をしている。幼少期の教えを信じており、天国のみが救いだと思っている。非常に優れた視力を持っている。

第2章の主人公オクジー

バデーニ
 第2章の主人公の1人。C教の修道士。とても頭がよく知識欲が強い。しかし、協調性はあまりない。

同じく第2章で主人公となるバデーニ

ヨレンタ
 第2章でオクジー、バデーニとともに地動説に魅入られる頭脳明晰な女性。天文研究施設で助手をしているが、女性というだけで研究には参加させてもらえない。

第2章でオクジーたちと出会い地動説を知るヨレンタ

ドゥラカ
 第3章でヨレンタの遺志を継ぐ女性。移民であり、亡き父のトラウマからお金に執着を見せる。記憶力がいい。

第3章でヨレンタの遺志を継ぐドゥラカ(画像下)

ノヴァク
 第1章から第3章まで登場する異端審問官。地動説が異端と信じ、地動説を信じ研究する者を拷問にかけ処刑してきた。ヨレンタの父親。

異端審問官のノヴァク

登場人物たちの信念や思いが地動説と一緒に次の世代に繋がっていく

 本作ではほとんど文字が読めない身分の人たちの中にも地動説に魅入られていく。

 特に筆者はそんな文字が読めない代闘士オクジーと、地動説を異端とする宗教P教の修道士バデーニが登場する第2章が好きだ。第2章では第1章から時間が流れ、偶然フベルトが残した地動説の研究書を見つけた異端者が次の主人公となるオクジ―とその同僚グラスに書類の在処を託す。

 オクジーは子どもの頃にC教の修道士の教えを信じており天国こそが唯一の救いと信じている。しかし、自身が決闘の代理をする代闘士として殺してきた相手はいつも満足していない死に顔をしており、本当にみんなが天国に行けているのかと懐疑的になり、ネガティブな思考を持っている。

 そんなオクジーが異端者から託された研究書の場所を教えに訪ねていくのがP教の修道士バデーニだ。彼は頭が良すぎるが為に周りから浮いており、その知識欲から親友を殺した過去を持つ。

 P教の中で浮いたバデーニと、そこに地動説の研究書を持ってきたオクジー。そして2人が見つけた天文研究を志す女性ヨレンタが加わり、地動説は完成へと導かれていく。

 彼らは時代が違えば名を残すような頭脳や身体能力を持ちながらも、生まれた時代においては女性だから、はたまた頭が良すぎて周りと溝ができやすいなど浮いてしまう存在だ。そんな彼らが地動説に魅入られ、互いに背中を預けるようになるのは読んでいて胸が熱くなる。

 また、2部の途中で一旦物語から離れるヨレンタも2人の後を継ぎ次の世代に地動説を繋げていく存在となる。

筆者の好きな第2章が掲載されている第2集

 彼らの中にあるのは地動説に魅せられた己の美学や譲れないものだ。それは知識や繋がり、信念など登場人物によってさまざまだが、その思いと合わせて地動説を次へ繋ぐと決めた顔は晴れやかである。

 本作の中でキーになる地動説は、物語の中の言葉を借りると「感動」と一緒に次へと伝わっていく。この地動説を知った瞬間に登場人物たちが感じた感動、そしてそれを次に伝えたいという想いが描かれており、それを伝えていく物語だ。

 この感動や次の世代へ想いを託していく彼らの表情は読んでいるこちらの心をぐっと掴んでくる。そしてそんな彼らが見ていた星空は得も言われぬほど美しく描かれているのが、物悲しい。

 本作の中では地動説に関する記述はとてもわかりやすく、天体を観測して感じる天動説の違和感がとても丁寧に解説されている。天文があまり得意でない人も読みやすい作品になっていると感じた。

 また、本作はあくまでもこれが地動説に魅せられた登場人物たちの情熱や生き様の物語であり、難しい定理や天体の動きが話のメインではない。そのため天文が苦手な人でも作品としてはとても読みやすいのではないかと思う。コミックス全8集の中で地動説に絡んださまざま登場人物の生き様を感じることができる。もし興味を持った方はアニメが始まる前に1度手に取って読んでみてほしい。

 なお、TVアニメはNHK総合テレビにて放送が予定されており、初回は第1話・第2話連続放送を実施。放送終了後にはNetflixおよびABEMAにて配信も予定されている。どのあたりまでアニメ化されるのかは未定だが、公開されているPVを見る限り、第2章の部分も放送されるものと思われる。個人的には2章の地動説に魅入られて人生を賭けるオクジーとバデーニの姿を楽しみにしている。キャストとしては主人公のラファウを坂本真綾さんを演じるほか、ノヴァクを津田健次郎さん、フベルトを速水奨さんが担当することも発表されており、アニメならではの表現にも期待したい。

【【マンガ大賞2021 第2位受賞!】『チ。―地球の運動について―』15秒PV】