特別企画

【今日の読み切り】「果たされない歌」

1930年代アメリカ、自由に歌うことすら許されなかった少年たちの友情

【果たされない歌】

著者:矢子園知弓

講談社

 1930年代アメリカ、奴隷解放宣言の後も南部には奴隷として働く多くの黒人が暮らしていた。そんな環境を当然のものとして育ってきた白人のレジナルドは、ある日、素晴らしい歌声を持つ盲目の黒人少年タイロンと出会う。歌手になりたいという夢を持つレジナルドは、自分が白人であることを隠したまま、タイロンに歌を教わり、友情を深めていく。

 「果たされない歌」は、矢子園知弓氏の短編漫画。2024年春のアフタヌーン四季大賞に選出された作品だ。現代もなお社会問題としてたびたびニュースになるアメリカの黒人差別。南北戦争の終結後、1863年に奴隷解放宣言が出されでも、それですぐに奴隷制がなくなったわけではなく、本作の舞台である南部では、半世紀がたっても依然多くの黒人が貧困や理不尽な暴力に怯えながら暮らしていた。

 そんな時代に、お互いに秘密を持ちながらも友情をはぐくんだレジナルドとタイロンの人生には、常に歌があった。それは、リズムアンドブルース誕生の歴史とも交差している。漫画を読んだ後は、R&Bの名曲を聴いてみたくなる。

【あらすじ】

 舞台は1930年代のアメリカ合衆国。白人の人気歌手レジナルドのもとに、かつて彼が歌を教わった黒人のタイロンから手紙が届く。思い起こされる少年時代の秘密と約束。そして10年越しの再会が二人にもたらすものとは。