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「プレイボール」、「バトルスタディーズ」、「忘却バッテリー」など名作野球マンガで甲子園に熱狂!【夏休み特集】
甲子園を目指す”青春の描かれ方”の違いを楽しもう
2024年8月23日 00:00
- 【第106回全国高校野球選手権大会・決勝】
- 関東第一 vs 京都国際
- 10時開始
日本の夏を象徴する野球の一大イベント「甲子園(全国高等学校野球選手権大会)」が今年もいよいよ決着を迎える。今年は舞台である「阪神甲子園球場」が誕生から100年ということもあり、100周年を記念した特別サイトや、名作野球マンガとのコラボムービーも公開されて、野球と球場の両方で大きな盛り上がりを見せている。
甲子園は毎年8月に兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開催される高校野球の全国大会。各都道府県を代表する強豪校が全国各地から集結する、高校球児たち憧れの大会であり、高校野球ファンにとっては楽しみの一大イベントだ。毎年、甲子園球場では高校球児たちが夢を追いかけ、汗と涙を流しながら数々のドラマを生み、多くの人々を魅了しつづけている。そこで今回は、甲子園をテーマとした野球マンガを紹介したい。
純粋なスポーツドラマから、ちょっと変わった視点で描かれるストーリーまで、時代とともに進化を続け、幅広い読者層に愛されてきた野球マンガ。今回は、そんな豊かなバリエーションを持つ野球マンガの中から、おすすめの3作品を紹介する。
不屈の精神で挑む野球少年の物語「プレイボール」
「プレイボール」は、集英社のマンガ雑誌「週間少年ジャンプ」にて1973年から1978年にかけて、ちばあきお氏によって連載された野球マンガ。物語の主人公である谷口タカオ(タニグチタカオ)を中心に、野球というスポーツの厳しさ、そしてその中で光る人間の強さや弱さが丁寧に描かれた作品だ。特に、怪我やスランプといった現実的な問題に直面しながらも、努力と工夫を重ねて乗り越えていくキャラクターたちの姿に多くの読者は勇気をもらい、今も多くのファンを魅了しつづけている。
本作で描かれるのは、中学野球で墨谷二中のキャプテンとして活躍した主人公・谷口タカオの挫折と再起の高校時代を描いた物語。谷口タカオは中学時代、弱小校であった墨谷二中を全国大会優勝まで導くという輝かしい成果を成し遂げる。
高校でもその活躍を期待された谷口だったが、中学の最終試合で試合中に骨折しながらも無理に投球を続けたことが祟り、右手の人差し指を伸ばせないという後遺症に悩ませられる。まともにボールを投げられなくなった結果、谷口は墨谷高校に進学後は部活に入ろうとはせず、田所がキャプテンを務める弱小野球部の練習風景を毎日のように夕暮れまでグラウンドの片隅で眺める日々を送っていた。
しかし、野球に対する未練と情熱を断ち切れなかった彼は「墨谷高校野球部」へと入部することで再び野球に打ち込むことになる。
今回紹介する作品のなかで一番の古株である本作は、一見すると古臭い昔のマンガに思えるかもしれない。だが、見た目に反してその実態はどこまでも無駄のない世界観で描かれた濃密な人間ドラマ作品だ。作中に登場する人物たちはみな欠点を持ち合わせた等身大のキャラクターたち。
スポーツマンガにありがちな天才と呼ばれるキャラクターや、少年マンガでありがちな魔球や必殺技、友情や恋愛などの要素は本作に一切登場しない。ただただ野球とそれを取り巻く練習の日常が淡々と描かれた、地味で平凡ながら「本道」とも言えるリアルな物語の作品となっている。
そんな物語になぜ多くの人が惹き込まれたのか。それはひとえに主人公・谷口の練習をメインに描かれた「頑張る」姿にある。作中で谷口は何にでもチャレンジし、少しでも手応えがあればひたすらに練習をしつづける、まさに「努力バカ」ともいえるキャラクターだ。
ボールがまっすぐ投げられないなら地面にあたることを想定したワンバウンの投法を模索し、さらにはボールを持ったまま自らが走って走者のアウトを狙いにいくなど、最後まで勝利を諦めない姿勢で取り組んだ。谷口がただひたすらに「頑張る」その姿に、チームメイトは少しずつ影響され、彼らもまた成長していくことになる。
一人の「頑張り」が人へと伝染し、そこからチームが一つになる。そうして努力した先で強豪チームたちへと挑戦していく。このスポーツを通じて成長する若者たちの姿に多くの読者は共感し、自然と谷口やチームを応援するように作品へとのめり込んでいった。
この作品は野球マンガのジャンルにおいて、スポーツの厳しさとそれを乗り越えるための努力や工夫、そしてスポーツを通じて成長する若者たちのリアルな姿を描いた、まさに甲子園を目指す若者たちを象徴する作品といえるだろう。
1978年に連載が終了している本作だが、実は現在も関連作品の連載が行なわれている。「プレイボール」はリバイバル企画として2017年から2021年にかけて集英社のマンガ雑誌「グランドジャンプ」にて、最終回の続きを描いた「プレイボール2」として同作のファンでもあるコージィ城倉氏による連載が行なわれた。また、2019年には同作者によって「キャプテン2」の連載が今現在も続いている。
甲子園出場経験者の作者が描く超リアル野球マンガ「バトルスタディーズ」
次に紹介するのは高校野球の歴史でも大きな爪痕を残したことで有名な学園を舞台にした野球マンガ「バトルスタディーズ」。本作は、講談社のマンガ雑誌「モーニング」で2015年からなきぼくろ氏が連載中の野球マンガだ。高校野球の歴史を彩った野球の名門高校を題材とした本作では、ある意味野球界の闇ともいえる側面を垣間見ることができる作品として、ひときわ異色な存在感を放っている。
ますはじめに、本作を語るうえで避けては通れない「PL学園」について紹介する。PL学園は全国優勝7回、100人近くのプロ野球選手を輩出した、野球の名門高校。清原和博選手、桑田真澄選手など、多くの有名プロ野球選手の出身校としても知られている。そんなPL学園だが、実は厳しすぎる上下関係があることでも有名だった。
その実態は上級生や監督による暴力事件という最悪の形で表沙汰となってしまう。その後は出場辞退や監督の引責辞任、さらには大会でのコールド負けと続き、ついには2016年に休部という、事実上の廃部となった。そんなPL学園のリアルを、「DL学園」と主人公・狩野笑太郎の物語で描いたのが本作「バトルスタディーズ」だ。
本作の魅力は、マンガとは思えないほどリアルに描かれた描写にある。それもそのはずで、作中に登場するDL学園での生活は、野球の名門高校「PL学園」の出身者であり、甲子園出場経験者でもあるなきぼくろ氏の実体験をもとに描かれている。作者が実際の甲子園球児というのは、それだけでも凄まじいインパクトだ。だが、それに加え本作では一時期話題となったPL学園が題材となっていることから、多くの野球ファンには衝撃的な作品となっている。
ちなみに1点だけ注意してほしいのだが、本作は別に暴露本的なものではない。「バトルスタディーズ」はむしろ作者の野球愛とPL愛が溢れた作品ともいえる。一見すると暗めのテーマに思える本作だが、その実は作者の高い画力と、クセが強すぎるキャラクターたちが繰り広げるシュールギャグ作品になっている。
大阪が舞台ということもあり、大阪弁で会話するキャラクターたちや、おもわずツッコミをいれたくなるとんでも展開が数多く登場することから、明るく楽しめる作品となっている。なお、単行本の巻末では作者のなきぼくろ氏と縁のある監督や先輩、高校時代を共に過ごした現役選手たちとの対談が組まれている。
門松と都築のモデルである#JR東日本の松本晃(#横浜商大)&#鈴木雄太(#立大)を迎えた同級生トーク
— バトルスタディーズ@最新41&42巻8月22日発売!! (@battlestudies1)March 24, 2020
球友ってホントいいなと思いました
今回の取材&構成は野球ライターの#菊地選手(撮影:#Emma)#なきぼくろ『#バトルスタディーズ』22、熱く楽しく発売中#高校野球#baseball#甲子園pic.twitter.com/rtsBrS0CGl
ギャグの多い本作だが、その中にキャラクターたちの想いや葛藤、かっこよさもしっかりと詰まっている。特に物語序盤で登場するDL学園3年生の烏丸学(からすまがく)は高校生とは思えない迫力と魅力に加え、試合でのかっこよさや、学園での器の大きさ、甲子園に出場できない悔しさなど、読めば必ず付き人になってみたいと思ってしまうほど、魅力に満ち溢れている。
ちなみに筆者は序盤の入寮時のシーンが一番好きだったりする。軍隊のブートキャンプさながらに厳しく決められたDL学園野球部の掟に苦しむ主人公ら新入生が四苦八苦しながら工夫する姿や、同じ苦行を共にする同期と仲間意識を芽生えるところなどが強く印象に残っている。どんな内容であれ、夢に向かってなにかを頑張るシーンというのはやはりスポーツマンガの王道的展開で、心にくるものがある。
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「バトルスタディーズ」は人間としての成長や仲間との絆、スポーツに対する純粋な情熱という王道的テーマだけでなく、勝利至上主義における部内のいじめや、厳しい指導の実態という現代社会における教育やスポーツのあり方についても問題提起を行なった貴重な作品でもある。甲子園を目指す高校球児たちをただ描いただけでなく、深いメッセージ性を持つ作品でもあるので、ぜひ一度読んでみてほしい。
無名高校に偶然集結した天才たちが繰り広げるドタバタ野球マンガ「忘却バッテリー」
最後に紹介するのは野球ファンだけでなく、多くの読者に注目された野球マンガ「忘却バッテリー」。本作は、集英社のウェブコミック配信サイト「少年ジャンプ+」で2018年からみかわ絵子氏が連載中の野球マンガ。この作品は、記憶喪失の主人公が再び野球に触れる物語を描いた、ある意味で野球マンガの枠を超えたユニークな作品として注目を集めた。
本作だが、天才球児たちによる王道野球物語かとおもいきや、タイトルの「忘却バッテリー」にもあるように、主要キャラである要圭がまさかの記憶喪失でスタートする。しかも当の要圭は記憶喪失の影響なのか“智将”の面影などいっさいない、ただのアホになりさがっている。
肝心の野球に関してもやりたくないと騒ぐなど、全体的にギャグがメインの展開となっている。だが、そんなギャグのなかに突如として野球のシリアスが登場する。ギャグに振り切られているからこそ、ときおり要圭が見せる“智将”の片鱗が際立ち、その瞬間に読者は思わず惹き込まれてしまう。
そんなドタバタ展開でスタートする本作だが、実は野球初心者に優しい作品というのも魅力のひとつだ。主人公はタイトル通りバッテリーの二人だが、物語序盤は主人公たちに巻き込まれたもう一人の野球少年・山田太郎(やまだたろう)の視点で進められる。
清峰葉流火と共に都立小手指高校の野球愛好会に入ることになった山田は、野球の知識を失った要圭に野球や捕手のことを教えていく。そのため、読者は要圭と一緒に野球について学ぶことができるようになっている。
また、作中に登場する才能豊かな登場キャラクターたちもまた魅力的だ。都立小手指高校には、山田と同じく清峰葉流火と要圭に敗れ、野球を辞めるために都立小手指高校に入学した藤堂 葵(とうどう あおい)と千早 瞬平(ちはや しゅんぺい)。「野球部」というシステムに馴染めず、フィクションの野球に逃げた土屋 和季(つちや かずき)など、才能があるにもかかわらず、挫折して野球を辞めてしまったキャラクターが何人も登場する。
一見するとギャグマンガなのに、ときおり現れるシリアス展開や、才能ある者の裏に隠された努力や挫折、そして再起のドラマという野球マンガの王道的展開がしっかり楽しめるところにもこの作品の人気が秘められている。
「忘却バッテリー」のもうひとつの魅力にアニメ版がある。アニメ版では声優の宮野真守が要圭を演じており、アニメならではのキレのある動きとテンポで要のギャグを繰り出していく。その勢いは凄まじく、宮野真守の振り切った演技によってもはや声を聞くだけで面白くなってしまうほどだ。宮野真守の凄さを堪能できる作品でもあるので、気になる方はマンガだけでなく、アニメ版もぜひみてほしい。
以上が今回紹介するおすすめの野球マンガ3作品だ。時代とともに進化を続けてきた野球マンガのなかで、甲子園は変わらず球児たちの聖地として君臨しつづけてきた。だが、一口に甲子園を目指す野球マンガと言っても、その青春の描かれ方は千差万別。この機会にぜひ、様々な切り口で描かれた野球マンガを読んで、甲子園球場100周年の歴史を感じてみてほしい。
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